自閉症性障害
自閉症(じへいしょう、Autism)は、社会性や他者とのコミュニケーション能力の発達が遅滞する発達障害の一種。先天性の脳機能障害であるが、脳機能上の異常から認知障害の発症へといたる具体的なメカニズムについては未解明の部分が多い。時に、早期幼児自閉症、小児自閉症、あるいはカナー自閉症と呼ばれる。
日常語でうつ病やひきこもり、内気な性格を指して自閉症と呼ぶこともあるが、これは医学的には完全に誤った用語である。
定義
アメリカ精神医学によるDSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental disorders)によると 第一軸の「通常、幼児期、小児期、または青年期に初めて診断される障害」における広汎性発達障害(pervasive developmental disorders)に位置づけられている。
自閉性障害の基本的特徴は3歳位までに症状があらわれ、以下の3つを主な特徴とする行動的症候群である。
1.対人相互反応の質的な障害
2.意思伝達の著しい異常またはその発達の障害
3.活動と興味の範囲の著しい限局性
原因
現在では先天性の脳機能障害によるとされており、多くの遺伝的因子が関与すると考えられている。
フランス・パスツール研究所の研究チームが、フランス国立医学研究機構およびスウェーデン・ヨーテボリ大学と行った共同研究では、自閉症者の脳内で遺伝子「シャンク3(SHANK3)」に異常があることが指摘されている。ただし、研究チームからはシャンク3で自閉症の全ての症状を説明できるわけではないと警告が発せられており、主要な社会的障害についてある程度説明ができるかもしれないと述べるにとどまっている。
父親が中高年のときに授かった子供である場合、新生児が自閉症になりやすいとする近年の米国の研究がある。同研究によると、父親が40歳以上の新生児は、自閉症や関連の症例が30歳未満の父親の場合の約6倍で、30 - 39歳の父親と比較すると1.5倍以上であったとされている。一方、母親については、高齢者で多少の影響を及ぼす可能性は排除できないものの、子供の自閉症に与える影響はほとんど認められなかったとされている。
日本の独立行政法人理化学研究所は、神経細胞の生存や分化に重要な神経栄養因子の分泌を調節する遺伝子(CADPS2遺伝子)の異常が、自閉症の発症メカニズムに関係しているとの研究成果を発表している。
ミラーニューロンの活動低下の影響
ミラーニューロンとは、他者の動作を観察している際に、自分が動いている時と同じように反応する神経細胞(ニューロン)で、イタリアにあるパルマ大学のジアコーモ・リゾラッティ(Giacomo Rizzolatti)らの研究グループによって、1996年に発見された。
サルなどの動物の大脳皮質の前頭葉に運動前野と呼ばれる領域があり、この領域にあるニューロンは、サルが自分で動いている時に反応するだけでなく、ヒトが自分と同じ動きをしているのを見ている時にも反応した。このように他者の動作に対しても、まるで鏡を見ている様に反応することから、ミラーニューロンと名づけられ、その後、fMRIによってヒトでも同様のミラーニューロンの存在が示唆された。
カリフォルニア大学のV.S.ラマチャンドランとL.M.オバーマン(Lindsay M.Oberman)らのグループ、スコットランドのセントアンドリューズ大学のホイッテン(Andrew Whitten)らのグループは、ほぼ同じ時期に、対人スキルや共感の欠如、言語障害、模倣が上手く出来ない等の自閉症の特徴は、すべてミラーニューロンの機能不全と同じ特徴を持つとの説を発表した。
しかし、ミラーニューロンがヒトに存在すること自体がまだ完全に証明された訳ではなく、このニューロンと自閉症との関係もいまだ不透明である。また、異常があると自閉症になるという可能性はあるが、体を揺らす、アイコンタクトの回避、知覚過敏、特定の音に対する嫌悪などの自閉症特有の症状は、ミラーニューロンの異常だけでは説明できない。
統計
統計的には国際的に増加傾向にある。ただし自閉症が実際に増加しているのではなく、疾患が世の中に認知されるにつれ、従来診断されなかった軽度のものも含まれるようになってきているからと考えられている。
日本では1000人に1 - 2人の割合で生じているが、どこまでを自閉症の範囲とするかによって発生率は大きく違う。男性と女性の比率は4:1程度と言われている。
しかし、この障害を持つ女子は、より重度の精神遅滞を示す傾向がある。[4]X染色体の異常に起因する脆弱X症候群による説明の可能性が考慮される。
日本自閉症協会によると現在日本国内に推定36万人、知的障害や言語障害を伴わない高機能自閉症(アスペルガー症候群、またはアスペルガー障害)など含めると120万人いるといわれている。
分類
自閉症は症例が多彩であり、健常者から重度自閉症者までの間にははっきりとした壁はなく、虹のように境界が曖昧であるため、その多様性・連続性を表した概念図を自閉症スペクトラムや自閉症連続体などと呼ぶ。
知的障害を伴う場合が多いが、知的能力(一般的にIQで判断される)が低くない自閉症のことを高機能自閉症と呼ぶことがある。また、知的能力の優劣に関わらず、一部の分野で驚異的な能力を有する場合もあり、その驚異的な能力を有する者をサヴァン症候群と呼ぶ。なお、「高機能自閉症」と「アスペルガー症候群」、「低機能自閉症」と「カナー症候群」は基本的には類似しており、臨床的には区別がつきにくい場合が多い(DSM-IV、ICD-10では言語障害がないものをアスペルガー症候群、言語障害があるものを自閉性障害、小児自閉症(カナー症候群)と分類する)。本記事では同一のものとして扱う。
高機能自閉症
自閉症スペクトラムのうち、知的障害がないもの(一般的にはIQ70以上)を高機能自閉症(知的遅れのないカナータイプ)やアスペルガー症候群(言語障害は無いが、視覚認知・空間認知力に、問題を生じる)と呼ぶことがある。「高機能」というのは知能指数が高いという意味であるが、平均的な健常者より高いとは限らず、知的障害との境界域の場合もあれば、一部平均的な健常者をはるかに上回る場合もある。1980年代以降、急速に認知されてきた。
サヴァン症候群
一部の自閉症児者は、カレンダーも見ずに過去・未来の特定の日の曜日を瞬時に答えたり、驚異的な記憶力を有していたりする、いわゆるサヴァン症候群と呼ばれる能力を持つ場合もある。しかし、サヴァンでなくても大なり小なり特異な才能を示す事が多いため(例:線描、裁縫など)、どこからをサヴァンと言うかが非常に難しい。
症状
言語の発達の遅れ、対人面での感情的な交流の困難さ、反復的な行動を繰り返す、行動様式や興味の対象が極端に狭い、極度の自己中心的思考になる、被害妄想を持つ、ストレスによるDV発症などの様々な特徴がある。
喋らなすぎるにせよ、喋りすぎるにせよ、プロトコルの互換性が低いがために対他的コミュニケーションポートが相対的に“閉じ”気味の存在であることは、あらゆる自閉症児に共通する。
「自閉」という言葉から、他者とのかかわりを一切持たない、寡黙というイメージを連想することもあるが、実際の自閉症の場合は、一般的に恥ずかしいと思って秘密にするような事でも正直に話してしまうなど、むしろイメージ的には自閉とは逆の「自開」であるという人もいる。
なお、自閉症の症状は人によってかなり異なり、以下の特徴が当てはまらない場合もある。
治療
現代医学では根本的な原因を治療する事は不可能とされている。 「TEACCH(Treatment and Education of Autistic and related Communication handicapped CHildren)」「ソーシャルスキルトレーニング」などの各種プログラムなどによって、健常者に近い社会生活が送れるようになる場合もあるが、これらのプログラムは本人の社会生活における困難を軽減するものであって、根本的な原因が治癒したわけではないとされる。
原因が完全に究明されていない現在、疫学・予防策は確立されていない。
合併症
自閉症は、注意欠陥・多動性障害(ADHD)や学習障害(LD)などと合併する場合がある。知的障害も合併していることが少なくない。まれにダウン症と合併する例もある。
なお、自閉症者は非自閉症者と比べて統合失調症に罹患する確率が極めて低いという報告がある。例えば非自閉症者の統合失調症罹患率は0.8%だが、自閉症者の罹患率はこれよりもずっと低く、報告は世界で10例に満たない[17]。 (なお、統合失調症との関連に関しては、知的障害の有無や自閉症傾向の程度から、今後見直しが必要であるとの考えもある。というのも、統合失調症と診断されている人達のうち、もともと高機能広汎性発達障害であって不適応のため状態が悪化しており単に統合失調症と誤診されている事例が多くみられるからである。杉山登志郎氏の著書にこれらに関する記載がある。)
ウィキペディア参照:https://ja.wikipedia.org/
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