認知症
認知症(にんちしょう、英: Dementia、独: Demenz)は、後天的な脳の器質的障害により、いったん正常に発達した知能が低下した状態をいう。これに比し、先天的に脳の器質的障害があり、運動の障害や知能発達面での障害などが現れる状態は、知的障害という。
日本ではかつては痴呆(ちほう)と呼ばれていた概念であるが、2004年に厚生労働省の用語検討会によって「認知症」への言い換えを求める報告がまとめられ、まず行政分野および高齢者介護分野において「痴呆」の語が廃止され「認知症」に置き換えられた。各医学会においても2007年頃までにほぼ言い換えがなされている(詳細については#名称変更の項を参照)。
「認知症」の狭義の意味としては「知能が後天的に低下した状態」の事を指すが、医学的には「知能」の他に「記憶」「見当識」の障害や人格障害を伴った症候群として定義される。
従来、非可逆的な疾患にのみ使用されていたが、近年、正常圧水頭症など治療により改善する疾患に対しても認知症の用語を用いることがある。
単に老化に伴って物覚えが悪くなるといった誰にでも起きる現象は含まず、病的に能力が低下するもののみをさす。また統合失調症などによる判断力の低下は、認知症には含まれない。逆に、頭部の外傷により知能が低下した場合などは認知症と呼ばれる。
分類
皮質性認知症と皮質下性認知症という分類がなされる事もある。血管障害性と変性性という分類もあり、Hachinskiの虚血スコアが両者の区別にある程度有用である。日本では従来より血管性認知症が最も多いといわれていたが、最近はアルツハイマー型認知症が増加している。
認知症の原因となる主な疾患には、脳血管障害、アルツハイマー病などの変性疾患、正常圧水頭症、ビタミンなどの代謝・栄養障害、甲状腺機能低下などがあり、これらの原因により生活に支障をきたすような認知機能障害が表出してきた場合に認知症と診断される。脳血管障害の場合、画像診断で微小病変が見つかっているような場合でも、これらが認知症状の原因になっているかどうかの判別は難しく、これまでは脳血管性認知症と診断されてきたが、実際はむしろアルツハイマー病が認知症の原因となっている、所謂、「脳血管障害を伴うアルツハイマー型認知症」である場合が少なくない。
症状
以前よりも脳の機能が低下し、主に以下の様な各種症状を呈することとなる。家族などの介護者を悩ませ、医療機関受診の契機となるのは、主に周辺症状に起因する問題である。
中核症状 記憶障害と認知機能障害(失語・失認・失行・実行機能障害)から成る。 これらは神経細胞の脱落によって発生する症状であり、患者全員に見られる。病気の進行とともに徐々に増悪する。
周辺症状 幻覚・妄想、徘徊、異常な食行動、睡眠障害、抑うつ、不安・焦燥、暴言・暴力(噛み付く)、性的羞恥心の低下(異性に対する卑猥な発言の頻出など)、時間感覚の失調、など。 これらは神経細胞の脱落に伴った残存細胞の異常反応であり、一定の割合の患者に見られ、その症状は上記のもの以外にも非常に多岐にわたり、多数の周辺症状が同時に見られることも珍しくない。BPSDとも言われるこれら症状の特徴としては、軽症から出現が始まるが中等症に進行するに従い頻繁に出現するようになり、患者は日常生活を行う能力を急速に喪失してゆくことにある。このため、概して周辺症状の発現と深刻化によって家族などの介護負担は増大の一途を辿る。
検査
知能検査
診断の根拠を与える検査となる。
血液
本症の原因によっては、血中ビタミンB12・甲状腺機能の検査値が異常となるが、一般に本症を同定する血液検査項目はない。このため、「費用効率の観点から全認知症患者に血液スクリーニング検査を行うことは推奨されない」との意見がある。実際、2006年の560人の患者を対象とした研究では、治療可能な代謝異常に起因する認知症患者は一人もみつからなかった。
画像検査
原因に応じ、脳萎縮・脳内の病巣・脳腫瘍・水頭症の所見が見つかることがある。
診断
意識障害時には診断できない。ICD-10とDSM-IVでさえ診断基準は異なるが、一般に、日常生活に支障が出る程度の記憶障害・認知機能の低下の2つの中核症状が見られる時に診断する。周辺症状の有無は問われない。機能が以前と比べて低下していることが必須であり、生まれつき低い場合は精神発達障害に分類される。
記憶・認知機能などの程度を客観的に数値評価する検査としてWAIS-R(ウェクスラー成人知能検査)などがあるが、施行に時間を要し日常診療で用いるには煩雑である。簡便なスクリーニング検査として、日本では聖マリアンナ医科大学の長谷川和夫らが開発した「改訂長谷川式簡易知能評価スケール」(HDS-R)がよく利用される。世界的にはミニメンタルステート検査(MMS、MMSE)が頻用されている。
うつ病・せん妄と間違われやすい。難聴とも鑑別を要する。
うつ病との鑑別
認知症(痴呆)は、日内変動を伴わず、ゆっくり記憶障害から発症する。深刻さを欠き、質問に対してははぐらかしたり怒ったりする。一方うつ病は、日内変動が強く、比較的急激に抑うつ症状から発症する。自責的で深刻味をおび、質問に対する返答は遅れたりわからないと言ったりする。
せん妄との鑑別
認知症(痴呆)は、日内変動を伴わずにゆっくり発症する。原因が必ずしも特定されない。一方せん妄は、日内変動が強く急激に発症し、対話が成立しないこともある。薬剤・身体疾患などの原因が存在する。
治療
認知症を来たしている原因により治療方法は異なる。「治療可能な認知症(treatable dementia)」の場合は原因となる疾患の治療を速やかに行う。
近年、認知機能改善薬としてドネペジル(商品名:アリセプト)が開発され、アルツハイマー型認知症を中心として認知機能の改善、痴呆進行の緩徐化などの効果が期待されている。
また、認知症患者は認知機能低下のみならず、不眠、抑うつ、易怒性、幻覚(とくに幻視)、妄想といった周辺症状と呼ばれる症状を呈すことがあり、その際は適宜、睡眠薬、抗うつ薬、抗精神病薬、抗てんかん剤などの対症的な薬物療法が有効なこともある。
また慢性硬膜下血腫又は正常圧水頭症が原因の場合は手術で治す事ができる。
なお、日中の散歩などで昼夜リズムを整える、思い出の品や写真を手元に置き安心させる回想法やテレビ回想法などの薬物以外の手段も有効な場合がある。
介護保険、デイケア通所など社会資源の利用も有用である。 しかし、今まで認知症患者の立場からの研究が行われていなく、当事者の立場からの医療・福祉が提供されていない現状がある。
いずれにせよ、専門医(精神科医、神経内科医など)の協力を得て診断、治療を行う事が望ましい。
問題と解決策
認知症患者は既に日本だけでも150万人を超え、今後増加の一途をたどると言われている。既に、認知症患者を対象にした悪徳商法などが発生している。悪質リフォームなどはよく報じられるが、解決策について議論されることは少ない。
介護については、現在でも多くの家族が認知症患者を介護しているが、その負担の大きさから心中問題に発展する事もある。認知症患者の介護は、24時間の見守りが必要であり、これは地域ぐるみでないと対策は難しい。しかし、この問題は家族や貧困の問題とされており、社会問題とされる事はまだまだ少ない。
また、判断力が低下した認知症患者による自動車運転などの問題もある。
ウィキペディア参照:https://ja.wikipedia.org/
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